寺坂吉右衛門

寺坂吉右衛門  2016.12

NHKで「忠臣蔵の恋」が始まった。主人公は阿久里の侍女きよ。討ち入り後の義士を描いたNHKドラマでは、二〇〇四年の「最後の忠臣蔵」がある。主人公は寺坂吉右衛門。寺坂は吉良邸で奮戦した後に姿を消す。寺坂の友、瀬尾孫左衛門も討ち入りの前夜に姿を消す。

池宮彰一郎の小説「四十七人目の浪士」では、大石内蔵助が二人に密命を托す。寺坂は討ち入りの現場を知る生き証人として、瀬尾は妊娠していた内蔵助の愛人可留の世話役として生きよと。

「最後の忠臣蔵」は池宮の小説を原作としたドラマで、テレビでは上川隆也、映画では佐藤浩市が寺坂吉右衛門を演じている。結末部分は、可留の娘可音と瀬尾孫左衛門の物語が展開するが、原作・テレビ・映画で心理描写が異なる。瀬尾は幼女から育てた可音に恋慕の情を抱いているのか?自ら恋心を明かす瀬尾、寺坂に指摘されて逆上する瀬尾、黙して語らない瀬尾。脚色によって人物描写が変わってしまう好例である。

寺坂吉右衛門が主役の映画はもう一本ある。戦後、初めて作成された忠臣蔵映画「元禄水滸伝」。この映画で瑤泉院は「吉右衛門、このたびのことを誇らしげに語ってはなりません。侍の意地などつまらぬこと」と諭す。

寺坂吉右衛門は若狭野で生まれ赤穂藩士の吉田家に仕えた。陪臣であり足軽なので討ち入りしなければならないという義理はない。寺坂は自分の意志で盟約に加わり、内蔵助の「生き証人となれ」という言葉に従って八十三歳まで生きた。「良かったね」「武士として名誉ある死をとげたかったろうに」吉右衛門にどちらの言葉を懸けてあげたらよいのだろうか。

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